桜さん、疑心暗鬼(前編)

 聖杯戦争も終わって穏やかな日常が戻ってきた。
 私、間桐桜も様々な束縛から解き放れ今は最愛の先輩と幸せな生活を送っている。
 姉さんも留学先から帰省してきて私の身辺はなかなか賑やかだ。
 先輩と私、姉さんにライダー、そして毎日訪れる藤村先生と衛宮邸は大所帯になっている。
 ・・・しかし、男性は先輩1人、他が全て女性という割合はどうだろうか。
 それも、皆先輩に少なからず好意を抱いているというのは穏便ではない。
 何事も起こらなければ良い、などと心配するのは私の取り越し苦労だろうか・・・。

「じゃ、ちょっと士郎借りていくから」
 姉さんはそう言って先輩の襟を抓みながら言った。
「俺は猫の仔かっ!!」
 ぶんぶんと腕を振り回し姉さんの手を振りほどく先輩。
「あ〜ら、衛宮君は猫より犬っぽいと思うけど。ご主人様に絶対服従の犬」
 姉さんは、けけけ、といった擬音が似合いそうな笑みを浮かべている。
「くっ、このあくま!!」
「じゃ、明日にはちゃんと返却するから」
 まるで先輩をレンタルビデオの様に扱う姉さん。
「・・・はい、いってらっしゃい」
 心配だ。
「桜、無事に帰って来れなかったら警察に連絡してくれ」
「むっ、私が日本を離れている間に少しは言うようになったわね」
「遠坂は変わんないな。別れたあとの遠坂のまんまだ」
 かっ、と姉さんの顔が赤くなる。
「な、なによ、私が全く成長してないってこと!?」
「い、いや違う。そういう意味じゃない。遠坂は遠坂のまんまだなって安心してたんだ」
「変わると思った?」
「そりゃちょっとわな。少しはおしとやかになってるかもなんて期待した俺がバカだった」
「・・・ふん」
 そっぽを向く姉さんの顔は何だか複雑な顔をしている。
 それから、何やらわいわいと楽しそうに言い争いながら遠坂邸に仲良く歩いて行った。
 ふう、とため息をついて私は居間に向かう。

「ああ、義姉さん、ぼ、僕はもうっ!!」
「だ、駄目よスネ夫さん、妹のシズカにこんなことがばれたらどうするの!?」
「ぼ、僕は前から義姉さんのことが・・・」
 居間ではライダーが下らない昼メロを見ていた。
 ライダーはパリパリと煎餅をかじりながらテレビに集中している。
 しかし。
「・・・こんなことは、これきりにしてちょうだい」
「義姉さんは僕の事が嫌いなのかい?」
「・・・どうしようもないでしょう。あなたは私の妹の旦那なんだから」
「そんなことは関係ない。僕はもう自分の心を偽るのは嫌なんだ!!」
「じゃあ、なんでシズカと結婚したのよ?」
「ああ、あれは間違いだった。僕の人生の最大の過ち」
 ブチッ。
「サクラ、私はこの番組を見ている。いまちょうど盛り上がってきていたのにいきなり消すとはひどい。理由を説明してもらいたい」
 ジロリと無言の抗議をライダーに向ける。
「こんな低俗な番組を見る事はマスターとして禁止します。貴女、仮にも元女神でしょう?」
「ギリシャの神々は元々、ゴシップ好きなのですが」
「ともかく却下です」
「むう、私は何も低俗な好奇心からこのような番組を見ていたのではありません」
 嘘つけ、興味津々だったくせに。
「私はサーヴァントとしてマスターに降りかかるかもしれない災難に対処するためにこの ドラマを観賞していたのです」
「先輩は姉さんと浮気なんてしませんっ」
「かつて憧れた女の子が綺麗になって留学先から帰ってきた。女の子のほうも遠い異国の 地で離れ離れになった男の子のことを何度も思い返したでしょう」
 それは。
「そんな男女が今日誰も居ない広い屋敷で2人きりで一夜を過ごす。大変危険なシチエーションだと思いますが」
「先輩は魔術の修行で遠坂邸に行ったんです!・・・その、どうしてもあの屋敷でないとできない修行だからとか何とか・・・。」
「修行の邪魔にならないよう貴女には来るなと?」
「それは、そのとても集中力が必要な鍛錬だとか何とか・・・」
「・・・・・・・」
「何、言いたいことがあるなら、はっきり言ってライダー」
「はい、まず衛宮士郎は好人物ですが状況に流されやすいという特質を持っています」
 うぐっ。
「更に貴女の姉の凛は自分の感情にたいへん素直な人間です。悩む前にまず行動に移るタイプの女性ですね」
 むう。
「・・・最終的にスネ夫がどうゆう行動にでるか、興味ありませんか?」
 プチッ。

「何なの、この結末は・・・」
 私の怒りは頂点に達し怒髪天を突いていた。
 ライダーはずずっとお茶を啜っている。
 結論をいうとスネ夫という最低男は妻を捨てた。
 逆上したシズカさんは刃物を持ち出しスネ夫を刺した。
 しかし、惜しくも致命傷にならずスネ夫は義姉の看病を受け一命を取り留める。
 シズカさんは傷害で逮捕され、精神に異常をきたし病院送りになってしまった。
 スネ夫と義姉は罪悪感を感じつつ2人で新たな人生を送ろうと誓う合うところで私はテレビを破壊した。
「まあ、こんなものですかね・・・。」
 バキッ!!
 ライダーに延髄切りを喰らわせる。
「むう、今の一撃は効いた。強くなりましたねサクラ。」
「こ、こ、こんなシナリオ認めませんっ!!」
 責任者出て来いーー!!と絶叫する。
「いや、サクラ」
「だいったいシズカもシズカですっ!!殺るならキッチリ殺れっ!!」
「サクラ」
「うがーー!!」
 ライダーは無言で私のバックを取り垂直式バックドロップを放った。
 ボクッ!!
 何だかやばい音がして私は意識を失っていった。
「後半に続きます」


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