Good Morning my dear…


 朝の清々しい空気とは裏腹に憂鬱な顔でオレ(蒼井顕人)は廊下を歩いていた。

 「ったく。起きれなくなるまで飲むなよなぁ」

 ぶつぶつと文句を言いながら、歳にして三つ離れた姉貴の部屋の前に立つ。

 「姉貴。そろそろ起きないと会社、遅刻するんじゃないの」

 部屋のドアをノックしながら、中の姉貴に呼びかける。そのまま耳を澄ましてしばらく
様子を伺ってみる。案の定、姉貴からの返事はない。生きてんだろーな、おい、などと下
らない事考えながら今度は少し強めにドアをノックしながら呼びかけた。

 「おおい、朝だぜ。会社行かなくていいのか。いくら、もうすぐ寿退社するからって遅
 刻はまずいんじゃないの」

 ようやく目が覚めたのか、中からくぐもった声が返ってきた。

 「んん〜。今日、会社休む〜」

 って、いいのかオイ。いや、いい訳はないか。まったく、飲んだ翌日のお約束とは言え、
毎回起こす羽目になるこっちの身にもなって欲しいものだ。あんなんで、よく社会人が務
まるよなあ。まあ、本人が休むといってるんだから好きにさせるとしよう。
 「すまん、上司」などと顔も見た事が無い姉貴の上司に詫びつつドアを離れようとした
時、部屋の中から声が聞こえてきた。

 「あのさ〜、コーヒー持ってきてくんない」

 「てめー、いいかがんにしやがれ」という言葉を飲み込み、「ああ、わかったよ」と
ぶっきらぼうに返事をかえしてキッチンに向かう。ちなみにオレは大学生で今日の講義は
午後からになっている。というわけで遅刻の心配は無い。

 階下のキッチンでドリップ式のコーヒーメーカにスイッチを入れたあと、ふと冷蔵庫の
中を覗いてみる。一缶だけ残っていたポカリを見つけ姉貴のコーヒーカップと一緒にお盆
の上に乗せておく。おっと淹れ終わったみたいだな。コーヒーカップに注いで砂糖とミル
クを一さじずつ入れておく。姉貴は胃に悪いとか言ってブラックは飲まない。しかし二日
酔いするほど酒を飲むのも十分に悪いと思うぞ。

 コーヒーカップとポカリを持ってキッチンを後に再び階段を上る。 
  
 「ったく、何でオレがこんな事を」

 相変わらずぶつぶつとぼやきながら、姉貴の部屋の前に立った。

 「コーヒーいれてきたぜ。入っても良いのか」
 「んん〜、いいわよ〜」
 「じゃ、はいるぞ〜」

 といいながらドアを開ける。が、すぐに閉めた。姉貴の何も着ていない背中が見えたか
らだ。

 「どうしたの〜」
 「なんか着ろ、なんか」
 「ええ〜、いいわよ〜、なにてれてるの〜」
 「よくないっ。なんでもいいから羽織れっ」
 「ホントはうれしいくせに〜」
 「ええぃ、うるさいっ」

 ガサゴソとなにか着こむような音がする。しばらくして、

 「はい、いいわよ〜」
 「…んじゃ、はいるぞ」
 
 今度はゆっくりとドアを開ける。ソファベッドの上でころんと横になっている姉貴が目に
入った。とりあえずブラウスだけ羽織ったらしい。

 …しかし、いくら弟だからって無防備な格好してるな。白いブラウスからすらりと伸びた
きれいな足。オイオイ下着丸見えだよ。って、良く見たらノーブラじゃねーか。朝の日差し
を浴びて気持ちよさそうにしてやがる。夕べの酒がまだ残ってるのか、少し赤い顔がなんと
なく色っぽい。

 …はっ、思わず見とれてしまった。あわてて目をそらす。

 クスクスと笑い声が聞こえて、からかった口調で

 「あら〜、目に毒だったかしら。えっちな目で見てたわよ〜」
 「うるさいよ。それよりコーヒーとポカリここに置いとくぞ」

 と言いつつ、部屋の真中にあるガラステーブルにおいて部屋を出ようとする。

 「え、ポカリ? そっち頂戴」
 「頂戴って、自分で取れ」
 「いいじゃない。とってくれたって。私、あたま痛いの」

 「そりゃ飲み過ぎた姉貴が悪いんだろーが」と口の中で呟きつつ、素直にポカリの缶を手渡
す。我ながら人がいいというか、というより尻にしかれるタイプなのかも、と下らないことを
考えて思わず苦笑する。

 「ん、どうしたの」
 「いや、なんでもない。じゃーな」
 「せっかく来たんだしさ。コーヒー飲んでいけば良いのに」
 「いいよ、オレは下で飲む」
 「え〜。もう無いわよ、こういう事。せっかくだからさ、今のうちに恩を売っときなさい。
 高く買ってあげるから」
 「なんだそりゃ」

 その台詞に苦笑しながら振り返るオレ。さっきと変わらない表情で美味しそうにポカリを飲
んでいる姉貴が目に入った。でも「今のうちに」という台詞だけは、ちょっとだけ真面目な口
調で言ったような、気がした。

 「じゃあ…」

 ガラステーブルの前にすわり、姉貴のカップに入れたコーヒーをすする。しばらく二人とも
無言だった。窓の外からは小鳥のさえずりと遠くから朝の喧騒が聞こえてくる。

 「会社には、連絡したのか」

 無言でいる事に、なんとなく耐えられなくなって、ついそんな事を口にした。

 「さっき、携帯から連絡入れといた」
 「あっそう」
 「死にそうな声で、“風邪がひどいんで休みます”って言ったら、お大事にだってさ」
 「…おいおい」
 「そんなことより…」
 「ん? なんだよ」

 急に改まった口調で、姉貴が切り返してきた。こういう時は、あまりろくな話題にならない。
どんな質問が来るか、少し身構えてしまう。

 「彼女、いないの」

 ぶっ。コーヒカップに口をつけていたため思わずむせた。

 「きたないわね〜。はいティッシュ」
 「姉貴が変な事聞くからだろーが」
 「で、いるの、いないの」
 「しつこいな。いねーよ。なんだ、誰か紹介でもしてくれるのか」
 「自分で見つけなさい」
 「なんだよ、それ」

 それっきり、またお互い黙り込む。なんだ姉貴のヤツ、なに話そうとしてるんだ。訝しがる
俺を尻目にベッドから降りてガラステーブルの向かい側に座る姉貴。テーブルに肘をついてい
るせいで、はだけた胸元がいやがうえにも目に入る。

 「あんたさ…」
 「ん?」
 「人付き合い、面倒くさいとか考えてない」
 「そ、そんなこと、ないよ。うん」
 「うわずってるわよ、声が。だめよ、そんなんじゃ」

 やれやれという口調で言われてしまった。ち、お見通しかよ。

 「よけーなお世話だ。大体、姉貴には関係無いだろ」

 そう言って、ぷいと顔をそむける。我ながら拗ねたガキみたいで可愛くないと思うが、
まあ自分の姉貴に今更可愛いと思われてもしょうがないか。
 ふと姉貴が立ちあがる気配がした。トイレか? それならオレも部屋を出るか。そう
思って腰を上げかけたとき、ふいに後ろから抱きしめられた。

 「あ、姉貴!?」
 「こら、動かない」

 後頭部の辺りに、薄いブラウス越しに胸の感触を感じる。姉貴にこういうことをされるのも
なんだか複雑な気分だ。そんなオレの気分を知ってか、姉貴はゆっくりとしゃべり始めた。

 「顕人ってさ、あたしよりなんでも出来て、他人にも結構優しかったりするけど…」
 「……」
 「そっけない優しさなんだよね」
 「……」
 「…本当は、他人に踏みこんでいくのが怖いんでしょ。」
 「…そうかも…しれない」
 「…でも、そんなんじゃダメだよ」
 「ああ…」
 「ま、がんばなさい。あなたの人生だし」

 そういって、姉貴はオレの頬に手を当て自分のほうに顔を向けさせた。いつに無い優しい
微笑で見つめられて、思わず胸が高鳴った。そして…

 …チュッ

 姉貴は、すっとオレの額に軽く口付けをして、「じゃあね」と言って部屋から出ていった。
ふう、と溜め息をついてオレも姉貴の部屋を出る。どうやら姉貴はシャワーを浴びに行った
らしい。

 オレは誰もいないキッチンに戻って、コーヒーメーカーに残っていた分をカップに注いで
テーブルについた。いつものようにそのまま飲もうかと思ったが、ふとさっきと同じように
砂糖とミルクを一杯ずつ入れてみる。ゆっくりと広がっていくミルクの渦。ぼんやりとそれ
を眺めながら「じゃあね」と言った時の姉貴の表情を思い出していた。

 朝の喧騒も大分落ち着いたのか、ただ静かな時間だけがオレの回りを過ぎていく…。さっ
きと同じ、少し甘いはずのコーヒーの味も、何故かほろ苦く感じた。

 …二週間後、式場で幸せそうな姉貴を見ながら、オレは、なんとなくあの日のコーヒーの
味を思い出した。そして誰にも聞こえない声で呟いた…。

 「幸せにな。姉貴…」


あとがき

後書きっていうか言い訳再び…

 精進(したのか?)の後が見られないかも…。
 相変わらず稚拙な文章ですみませんです。最後まで読んでくださった方、本当に有難うございます。
 でもあんまり、はだYじゃないような気が…(苦笑)

 んで今回のお題はタイトルから見てもわかる様に、ちくわさんのCG(第2弾)です。
 途中でご本人様からもアドバイスを受けたんですが、さてさていかがなものでしょうか?
 でも感想聞くのが怖かったりと…(苦笑)

 何気なく書き始めて3作目ですが、やっぱり読むのと書くのでは大違い。
 非才が身にしみます(苦笑)。

 それでは、またの機会に…(って続くのか!?オイ)

                                    22:24 99/12/28