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2月のバレンタインデーの近くの頃。 俺と委員長は、二人きりでの一泊旅行にやって来ていた。 こうやって二人きりで旅行に来たのは、夏に海に一緒に行って以来の事だった。 「こんな寒い時期に、浩之も酔狂やな……」 旅行の誘いの申し出に、委員長は最初呆れ顔だったが、最後には飛び切りの笑顔で答えてくれた。 「ええよ……ウチ、浩之と一緒やったら、何処でもついていくから……」 そして、俺と委員長は、少し季節外れの山間のリゾートホテルへ旅行する事となったのだ。 俺と委員長は、鄙びた感じのローカルな駅に降り立った。 改札を出ると直に、小さなバスのロータリーがあり、止まっているバスの運転手が駅から降り立った観光客と話し込んでいる。 「ふふふ……なんとも長閑な景色ね……」 「本当だな……どうやら、あのバスみたいだ……俺達もあのバスに乗ろうぜ」 「うん……」 俺と委員長は連れ立ってバスに乗りこむ。 季節外れの観光客は珍しいのか、結構気さくに声を掛けられる。 車内で他の人達と他愛も無い話をしていると、程なくバスのドアが閉まり、バスはゆっくり発車した。 「ふふふ……こんなバスなんて久しぶりや……」 何となく委員長も嬉しそうだ。 このままバスに揺られて終点まで行けば、ホテルまで辿り着けるのだが、俺達は敢えて途中下車をする事した。 途中にある遊歩道を散策しながら、ホテルへ向う予定にしていたからだ。 何でも、パンフレットによれば、約1時間から2時間程度の散策コースがあるらしいのだ。 そして俺達の小旅行は始まったのだ。 委員長はバスから降りると、その場で大きな伸びをした。 「ふわあ……流石に此処まで来ると空気が美味しいわ……」 俺もつられて大きく深呼吸をする。 「うーん……本当だ……少し寒いけど……気持ち良い感じだな」 委員長は珍しそうに周りの景色を眺めている。 「へえ……」 俺はそんな委員長に声を掛けた。 「……委員長……そろそろ、行こうか?」 委員長 「うん」 委員長は大きく肯くと、俺の腕に抱き付いてきた。 「い、委員長……?」 俺がドギマギしていると、委員長は悪戯っぽく微笑んで言った。 「ええやないの……誰も見てへんし……」 そんな委員長の顔を見ていると、凄く可愛く思えて、思わず頬が緩む。 「……う、うん……そうだな……委員長……」 そして、俺達は腕を組んで遊歩道を歩き始めた。 遊歩道は、舗装された道から逸れると、森の中を抜けるルートへ変貌する。 景色が一変し、遊歩道というよりは、ピクニックの様な雰囲気になってきた。 それでも、延々と歩いていくと、不意に前方の視界が開けて、雄大なパノラマが広がった。 「わあ……奇麗……」 その景色に思わず委員長が声を上げる。 「凄い……むっちゃ……奇麗……」 其処には遠くの山々が、真っ白に雪を被った光景が広がっていた。 「あ……あそこがちょうど展望台になっているみたいだぜ……あそこ迄、行ってみよう」 「うん」 俺は委員長の手を握ると、展望台の場所まで誘った。 展望台からは、近隣の山々が手に届くほどの近さで迫ってきた。 「凄い眺めや……それにあんな遠くまで……わあ……」 「空気が澄んでるからな……遠くまで見通せるんだよ」 「……素敵やな……」 委員長と俺はその雄大なパノラマに時間の経つのも忘れて見入っていた。 ふと、その視界の片隅に、可愛い建物が見えるのに気づいた。 「なあ、委員長……ほら……あそこに見えるのが今日の宿泊予定のホテルだよ」 「何処?……へえ……うーん……まだ、結構な距離があるんやね……」 「うん……案内板によると……あと30分くらいみたいだな」 それを聞くと委員長が悪戯っ子の様に目を細める。 「……まあ、ええやんか……浩之は普段、運動不足なんやから……」 「それは委員長の方だろう?……後で足が痛いとか言っても知らないからな」 「そんな……いけずな事言うもんやない……浩之、最近優しさがのうなったんとちゃうか?」 「そんな事ないよ……俺は何時でも優しいさ」 「なんか、真実味が足らんな……」 そんなやり取りの後、俺達は再び遊歩道を歩き始めた。 と、再び歩き始めてから、暫く経った時だった。 「……んっ?」 ふと、委員長が怪訝そうな表情で上空を見つめた。 「……どうかした?」 「うん……今、何か……顔に当たったような……気がしたんやけど……」 「そう?」 俺もつられて上空を見上げる。 すると、あれ程晴天だった空に、真っ黒な雲が凄いスピードで立ち込め始めていた。 「あれ……なんか天候が……」 「え……ほんま……?」 「こんな所で降られても、雨宿りする所なんて無さそうだし……走るしかないかもっ!?」 「ええっ……そんなあ……」 委員長は不満そうに声を上げるが、それでも一緒に駆け出した。 「もう少し……雨よ降るなっ!! しかし、俺達の願いも虚しく、空からは冷たいものが降り始めてきた。 ポツ……ポツ……ポツ……ポツ……ポツ……ポツ……ポツ……ポツ…… 「ヤバイっ……降ってきたっ!!」 「もうっ!!……なんでこんな事になるんやっ!?」 冷たい雨が、容赦なく俺達に襲い掛かる。 持っていたバックを頭の上に掲げ、少しでも雨を避けるが、あまり効果はなかった。 「もうちょっとだから……頑張れっ!!」 「う、うんっ」 何時の間にか空は真っ暗になり遠くで雷鳴まで聞こえ始めた。 「委員長っ!!大丈夫かっ!?」 「うん……」 俺は少しでも委員長を濡らすまいと、委員長を脇に抱える様にして走る。 「ほら……あとちょっと……見えてきたぜっ!!」 「はあ……はあ……うん……」 そして、やっとの思いで、その日の宿である小さなリゾートホテルへと辿り着く事が出来た時、俺達は全身ずぶ濡れになっていた……。 フロントの人に気の毒がられながら、俺達は部屋へと案内された。 そしてベルボーイが立ち去るや否や、俺はずぶ濡れになった服を脱ぎ始めた。 「まったく……酷い目にあったな……あんなに急に天気が変わるなんて……」 俺はびしょびしょになった服を脱ぎ捨てながら、窓の外の景色を見つめた。 夕方から降り出した雨は、夜になって一層酷くなっているように見えた。 ふと見ると、委員長はじっと俺を見つめていた。 「……?……委員長も脱いだ方が……風邪惹いちゃうぜ」 「もう……鈍いやっちゃなあ……ちょっと恥ずかしいから……向こう、向いてて」 「えっ?……あっ……ごめん」 俺は慌てて、委員長に背中を向ける。 すると背後から、委員長が服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえ始めた。 俺は委員長に背中を向けたまま話し掛けた。 「しかし……こんな雨になっちゃうなんて……委員長って、『雨女』なんじゃないの?」 「なんやてっ!?なんで、うちが『雨女』なんやっ!?」 委員長の少し怒ったような声が返ってくる。 「だって……俺の家に初めて来た時だってさ……ずぶ濡れだったじゃない……」 「……えっ……?」 その瞬間、二人の脳裏に、あの甘酸っぱいような記憶が蘇り、二人で頬を赤くした。 「なっ、何を思い出させんのやっ……恥ずかしいやないか……」 委員長が照れながら文句を言う。 「でも、あの時も雨だったじゃないか……委員長って、こういうイベントの時っていつも雨じゃない?」 「こういうイベントって……夏、一緒に海に行った時は、ドピーカンやったやんか」 「そうだっけ?」 「そうや……もう忘れたんかいな……?」 忘れる訳が無い……委員長と過ごしたあの夏の日の事。 あの白いビキニ姿は今でも脳裏に焼き付いている。 楽しかった、委員長との初めての旅行の記憶だ。 俺が思い出に浸っていると、委員長が怪訝そうに俺を見つめていた。 俺は咄嗟に話を逸らそうと委員長に尋ねた。 「なあ……委員長……今夜の事なんだけど……」 「今夜がどないしたん?」 「いやあ……委員長、どんな格好してくれるのかなって……ネグリジェ?……ひょっとして全裸とか……?」 「なんやの……やーらしい」 俺がニヤニヤしていると、委員長は目を細めて少し軽蔑したような目つきで俺を見つめた。 「残念でした……ちゃんとパジャマ持ってきてるわ……ほらっ……あれ……?」 委員長の差し出したバックから、ポタポタと水滴が滴っていた。 「……えっ!?……そんなぁっ!?」 委員長は慌ててバックを開けて中を確認する。 「ああ……着替えが……全滅や……」 委員長は濡れてしまった着替えを引っ張り出しながら、困惑の表情を浮かべる。 「どないしよう……?」 「あーあ……本当だ……このタイプのバックは、防水が甘いんだよ……さっきの土砂降りで、雨が染み込んじゃったんだな……」 「そ……そんなあ……お気に入りだったのに……」 委員長は恨めしそうに濡れたブラウスやセーターを見つめた。 「みんな濡れちゃったのか?」 「うん、全滅や……このままじゃ明日着るもんがない……どないしよ……?」 「うーん……エアコンを全開にしておくのも手だけど……乾かなかったり、染みになったら困るもんな……」 「…………」 と、その時、このホテルを選ぶ時に見ていたパンフレットの各種サービスに、ランドリーサービスがあった事を思い出した。 「そういえば……このホテルには確か、ランドリーサービスがあったぜ」 「ほんま?」 「ああ……たしか……パンフレットにも書いてあったような……」 俺はベッドサイドに置かれた、ホテルの案内を捲る。 其処には夜の7時までにフロントへ申し込めば、次の日の朝までにクリーニングをしてくれるというサービスが書かれていた。 「あっ、あった!!……やっぱり、やってるよ。良かったな、委員長」 「……浩之……」 委員長はほっとしたように微笑んだ。 「これなら何とか間に合うだろ……まあ、多少は高くつくけど……とりあえず必要なものだけでも頼んだらどうかな?」 「そうやね……そうするわ」 「うん、じゃあ、俺がフロントへ連絡するよ……」 「うん……」 俺は内線でフロントへ連絡をすると、フロントの人は丁寧に応対してくれた。 そして、ランドリーサービスを頼むと俺は受話器を置いた。 「あ、あの……な……浩之……」 「えっ?」 俺が振り返ると、委員長が穏やかに微笑んでいる。 「……ありがと……浩之」 「なんで?……俺は何もしてないよ……」 「……ううん……そんなことない……やっぱり、浩之を好きになって……良かった……」 「……委員長……」 委員長の思わぬ言葉に思わず顔が赤くなる。 俺は照れた気持ちを誤魔化そうと、つい要らない口をきいてしまう。 「でもさ……下着とかの着替えは大丈夫なのか?濡れた下着なんて気持ち悪いだろ?」 そう尋ねた瞬間、枕が飛んできた。 ばふっ!! 「うわっぷっ!!なっ、何するんだよっ!?」 「もうっ!!せっかく良い雰囲気だったのにっ!!浩之のスケベっ!!……下着とかは無事やっ!!」 委員長は真っ赤になって、次の枕を構えている。 「どうして……人がせっかく良い気持ちでいると……あんたって男はもうっ!!」 「ご、ごめんよ……そんなつもりじゃ……」 と、枕を振り上げている委員長の胸元が、キャミソールの脇から覗いているのに気づいた。 「ところで……そのままの恰好じゃ……ちょっと拙くない?」 「えっ?」 委員長は今更ながらに、自分がキャミソールだけの恰好をしている事に気がついた。 「……あっ……きゃあっ!!スケベッ!!」 すかさず、枕の第二弾が飛んできた。 ぼすっ!! 「うわっぷっ!!」 「もうっ……最低っ!!あほぉっ!!」 時ならぬ枕投げが一段落してから、俺は委員長に話し掛けた。 「それより委員長……着替え無いんだろ?……これ着てろよ」 俺はそう言って、自分のバックから、一枚のシャツを取り出して、委員長に手渡した。 「えっ?……う、うん……ありがと……」 委員長は、少し赤くなってシャツを受け取る。 「……って、浩之っ!?……これは一体何やっ!?」 委員長は手渡されたシャツを広げながら、俺に尋ねた。 「これって、ワイシャツやないかっ!?……浩之っ!!あんた、何考えてんねんっ!?」 委員長は違う意味で真っ赤になって怒っている。 俺は、そんな委員長を見つめながら答えた。 「委員長……それって……あの日のワイシャツなんだよ……」 「……えっ?」 委員長の振り上げた右手が静かに降ろされる。 「いやあ……こうやって、二人きりなんて久しぶりだから、あの時の夜を再現したいなって思ってさ……駄目かな?」 「あっ、あほっ……駄目に決まっとるっ!!」 「ええっ?……どうして……?」 「……だって……恥ずかしいやんか……」 そう言うと委員長は頬を赤らめながら俯いてしまった。 「……浩之……こないな事して……段々、意地悪になってくんやな……」 「そんな事ないよ……意地悪だなんて……俺は委員長のワイシャツ姿……凄く可愛いと思ってるから……是非もう一度……・見たいなって……」 「……ほんまに……?」 「うん……」 委員長は一旦大きく溜め息を吐いてから、クスッと笑ってワイシャツを抱きしめた。 「しゃあないな……其処まで言うんなら……浩之のリクエストに応えてあげるわ……」 「本当?」 「でも……その前にシャワーを浴びさせてもらうわ……もう、ひえひえで、風邪惹きそうや」 「……俺も一緒して良い?」 すると委員長は急に覚めた目をすると、ベッドの脇に畳まれた、濡れた洋服を指差した。 「……それ、クリーニングにお願いする分や……浩之、後はお願いするわ」 「……はーい……」 「じゃあ、後はよろしゅう……」 委員長は目を細めながらそう言うと、さっさと浴室へ消えていった。 (……仕方ない……行ってくるか?) 俺はランドリーバックに洋服を詰めると、そのままフロントへと向った。 委員長の服をフロントに預けて戻ると、委員長はまだシャワーを浴びていた。 (お姫様はまだ入浴中か……) バックの中身を整理しながら待っていると、やがて浴室の鍵が開く音がした。 そしてすっかりシャワーで暖まったのか、白い肌をピンク色に上気させた委員長が姿を現した。 「……ふう……生き返った……浩之もシャワー浴びたら?」 委員長はバスタオルで身体を包み、濡れた髪をタオルで拭いながら優しくそう言ってくれた。 「うん……じゃあ、そうしようかな……」 俺は着替えを掴むと、委員長にウィンクをして浴室へ向う。 そして浴室の扉を閉めると、微かに委員長が髪を乾かしているドライヤーの音が聞こえてきた。 俺がシャワーを浴び終えて、浴室から出てくると、委員長は俺の渡したワイシャツに着替えて終えていた。 白いワイシャツの裾から、すらりと伸びた委員長の美しい脚が覗いている。 ただ、たっぷりとしたワイシャツでも、委員長の大きな胸には、少々きつそうに見えた。 俺がそんな委員長の姿態に見入っていると、委員長は恥ずかしそうに尋ねる。 「なあ……浩之……本当に……ウチに、こんな恰好させたかったんか?」 「うん……委員長にはその恰好が似合っていると思うよ……」 「あほ……もう……なんか騙されてる気がする……」 委員長はそう言うと、ほんの少しだけ口を尖らせる。 俺は委員長の背後に回り込むと、背中からそっと手を回し、そのまま委員長を抱きしめた。 「……委員長……」 「……あん……浩之……」 そして、掌を委員長の大きな胸に触れさせる。 「っ!?……こっ、こらっ!!何処触っとんのやっ!?」 「委員長の胸」 「あ、あほっ……こんなに明るい所で……ああんっ」 「委員長だって……期待してたから……ブラジャーしてないんだろう?」 「そ……そんな……違う……あん……」 柔らかな委員長の胸を、ワイシャツの上から優しく撫でるように揉みしだく。 「駄目やって……ああん……そんなに……触ったら……ああん」 委員長の髪が揺れる度に、シャンプーの香りが鼻孔を擽る。 「なあ……さっきからお尻の辺りに……何か触ってるんやけど……」 「だって……委員長がいけないんだぜ……そんなに刺激的な恰好をしているから……」 「刺激的な恰好って……浩之がさせたんやないか……」 「あの日の夜を……思い出すな……」 「……あん……浩之……」 俺は委員長の髪を撫でながら、ゆっくりと委員長の頭を引き寄せる。 委員長も自然に目を瞑ると、身体を預けるようにして首を傾ける。 「…………」 委員長の唇に、ゆっくりと自分の唇を重ねていく。 「ん……あっ……」 委員長の柔らかく温かな唇の感触が何とも心地良く、俺は何度も委員長の唇に自分の唇を重ねる。 静かな部屋の中に、時折二人の唾液の絡まるクチュッという音が響く。 俺達は時間の経つのも忘れて唇を重ねていた。 やがて、二人の唇が離れると、委員長は甘い吐息を吐いた。 「はあ……もう……キスだけで……はあ……」 委員長は頬を真っ赤にしながら尋ねてきた。 「……そんなに……したいんか?」 「……委員長だって……同じ気持ちだろ……?」 「あほっ……そんな事……女の子に聞いたら……あかん……んっ……駄目……こらっ」 俺は込み上げてくる劣情を抑え切れず、思わず力を込めて委員長の胸を揉む。 「ああん……そんなに……強く触ったら……あかん……あああ……」 「……委員長……俺……」 すると委員長は優しく微笑んで、小さく俺の耳元に囁いた。 「……ええよ。……抱いて……浩之……」 「……委員長……」 俺は委員長の身体をベッドの上に横たえさせると、唇を重ねながら、その上に覆い被さる。 「んん……んぁ……」 俺は身体を横へズラし、添い寝をするような体勢をとる。 そして、仰向けになっている委員長の、胸を撫でる。 「あん……そんな風に……触られたら……あああん……駄目……ああん……」 委員長は太腿を擦りあわせるような仕種で、可愛く身体を捩らせる。 「ふふふ……じゃあ、そろそろ……」 俺は胸を触っていた手をゆっくりと裾の方へと下げていく。 そして、ワイシャツのボタンを裾の方から一つ一つ外していく。 「あん……やっぱり……恥ずかしい……ああ……」 「……ふふ……奇麗だよ……」 「あほ……ああ……嫌……ああん」 「あと少しだから……ほら……」 また一つボタンが外される。 「もう……そんなにじらさんといて……ああん……」 「ふふ……これが……最後……」 「……あんっ……」 最後のボタンが外されて、いよいよ、ワイシャツの前を押し開こうとした瞬間だった。 「……ん……あっ……!?」 小さな叫び声を上げて、委員長が身体を起した。 「……そんな……んくっ……どないしよう……」 委員長はワイシャツの前を両手で押さえながら、困ったような表情でそう言った。 「ど……どうしたのっ?」 「……う、うん……ごめん……浩之……」 委員長は俺を押しのけると、ベッドから立ち上がり、そのまま洗面所へ向っていった。 「……委員長……?」 俺は何が何だかわからずに、呆然と委員長が洗面所に消えるのを見守るしかなかった。 やがて洗面所から委員長が戻ってきた。 「大丈夫か……どうかしたのか?」 すると、真っ赤になって委員長は俯いてしまった。 「う、うん……」 「気持ちでも悪いのか?」 「ううん……そうやない……」 「じゃあ……どうしたのさ……?」 すると、委員長はもじもじと困りながら答えた。 「あの……その……ウチ……女の子になってしもうたん……や……」 「……えっ……?」 「……ごめんな……だから……出来んように……なって……」 「……ええっ……ひょっとして……アレ?」 「……う、うん……」 委員長は真っ赤になって小さく肯いた。 「ほんまに……ごめんな……こないな事になるなんて……」 「は……ははは……良いって……良くある事さ……はははは」 「ごめんな……ごめんな……」 すると今度は、委員長の瞳からボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。 「な、泣かないでくれよ……そんな……ねえ、委員長」 「だって……だって……せっかく……浩之と……結ばれようと云う時に……こないな事になってしもうて……ううっ……うあああん」 委員長は俺の胸の中に倒れこむように抱き付いてきた。 「……ううっ……浩之……ごめんな……」 委員長は俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくっている。 「……委員長……」 俺は委員長を抱き寄せると、額に優しくキスをした。 「……浩之……?」 「大丈夫だって……仕方ないよ……こんな事もあるさ」 「でも……今日は散々やろ……本当に……」 「そんな事ないよ……いろいろあって、面白かったよ……なかなか、こんな事経験できないぜ?……」 すると委員長は涙を拭いながら俺に言った。 「……浩之……優しいんやね……」 「や、止めてくれよ……そう云う事言うの……照れるからさ……」 そう言って、ふと視線を窓に移した時だった。 「あれ……?」 「……どないしたん……?」 「うん……ちょっと……ごめん……」 俺は窓に近づくと、鍵を開けて窓を大きく開いた。 「……あ……雪……」 開け放った窓の向こう側は、何時の間にか真っ白な世界に変わっていた。 窓際に立っている俺に横に、委員長がぴったりと身体を摺り寄せてきた。 そして、俺達は寄り添いながら、外の景色に見入った。 「……雨が雪に変わったんだな……」 「……うん……」 暫くそんな世界に見入っていると、不意に委員長が寒そうに身体を震わせた。 「……ちょっと……寒い……」 「あっ……ごめん……委員長……ちょっと待ってて……」 「……?」 俺はブランケットを被ると、委員長の背中に抱きついた。 大きなブランケットに二人が包まれるように覆われ、俺は背中からぎゅっと委員長を抱きしめるる。 「ふふ……くっついてると……温かいだろ……」 「……うん……」 俺が委員長の首元に顔を近づけると、委員長もゆっくりと首を振り返させる。 互いの唇が、自然に重ねられていく。 「……結構……ロマンチックやな……」 委員長の胸の前に回された俺の掌に、委員長の胸の膨らみが触れている。 そして、呼吸の度に、その柔らかな感触が俺の掌に伝わってくる。 「なあ……委員長……お願いがあるんだけど……」 「……んっ……?」 委員長はとても穏やかな表情で俺の顔を覗きこむ。 「なんや……お願いって?」 「……その……お口で……してくれないかな……」 「っ!!」 ゲシッ!! 委員長の肘鉄が、俺の鳩尾に食い込んだ。 「うぐっ……痛てっ!!」 「あほっ!!もうっ、浩之はスケベなんやからっ!!」 「だっ、だって……」 「もう……せっかくの良い雰囲気が台無しやっ!!」 委員長はフンと、顔を背けてしまい、そのまま外の景色を見つめる。 「……委員長……」 委員長はそのまま黙り込んで口も利いてくれない。 でも、委員長はぎゅっと抱きしめられたまま、俺の腕の中からは逃れようとしなかった。 やがて、暫く経ってから、委員長は優しく微笑みながら振り向くと、静かに口を開いた。 「…………ええよ……してあげても……」 「……えっ……?」 俺が突然の返事にびっくりしていると、委員長はニッコリと笑いながら目を閉じて言葉を続けた。 「ふふ……でも……もう少し、こうして抱きしめていて欲しいんや……浩之を……感じていたいから……」 「……委員長……」 そのまま俺達はブランケットに包み込まれたまま、窓の外の雪景色に見入っていた。 腕の中に委員長をぎゅっと抱きしめながら……。 |
−END− |
あとがき |
委員長……実は、東鳩を最初に体験した時から委員長のファンでして……。 |