悶絶していた俺は、起こしにきた桜と共に居間に向かった。
そしてそこに待っていたのは、ニヤニヤしている遠坂と少し顔が赤いイリヤだった。
「おはよう衛宮くん、今朝もいい朝ね」
あかい悪魔は完全に傍観者を決め込んでいる。
「シロウ、時と場所考えてくれたら、考えなくもないからねっ」
どうやらイリヤ怒ってはいないようだが、発言の内容が不穏当なのは後で注意しておこう。
「あ、あの、先輩……」
ああ、解っているよ桜、いい加減目を背けるのも限界だよな。
―――帰れぬ街の美女――― 第三話「士郎、ライダーに食べさせられる」 |
「えーっと……」
どこから突っ込めばいいのか、言葉に困る。
その前にこれって食べられるのか?
食卓に並べられている物は、一応食器に盛られているけど……。
「シ、シロウ、ちょっと失敗してしまいましたが、がんばりました」
ああ、セイバーがんばったんだな……でも、王様は料理なんてしたことないよな?
「シロウ、努力はしたのですが……経験不足でした」
そうだよな、ライダーもそう言った事するなんて聞いたことないしな……。
「う、うん、二人の努力は認めるよ、ははは……」
「「シロウ」」
そんな目で見られても困るんだけどな、断れなくなるじゃないか。
「衛宮くん」
「なんだ遠坂?」
「がんばってね♪」
「そこで笑いながら言うなっ」
「サクラ、ご飯お願いするわ」
「先輩、胃薬です」
覚悟決めて食べるしかないか……俺、大丈夫だよな?
『ふん、貴様なぞ手料理に埋もれて溺死しろ』
いや、アーチャー、料理で溺死って無理だろ……。
って言うかなんでお前の声が聞こえるんだ!?
「シロウ」
「さあ、シロウ」
「あはは……と、ところで二人は味見したのか、それ?」
「「味見?」」
知るわけないか、今までも食べる専門だったしな。
よし、俺も男だし正義の味方を目指しているし、逃げちゃいけないよな。
「骨は拾ってあげるわ」
「サクラ、ご飯おいしいよ〜」
「すみません、先輩」
仲良く桜の朝食を食べる三人を横目に、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「じゃ、じゃあ、まずはセイバーのから……」
「どうぞ」
自信満々に胸張って皿を差し出すセイバーの姿が、なんか痛かった。
「ひとつきいてもいいかなぁ」
「なんでしょう?」
「これなにかなーって……」
「はい、卵焼きです。シロウの作る卵焼きには及ばないですが、がんばってつくりました」
「そっか、ははっ」
卵焼きですか、俺には真っ黒い炭に見えるんだけど……卵の黄色が見えないよ。
「この黒いのは何か入れたの?」
「いえ、フライパンで炒めていたらどんどん黒くなっていきましたので、フライパンの色でしょうか?」
呆けじゃなくて真面目に言ってるところが怖いよ、そんなことぐらいじゃ色落ちしないって。
まあ、問題は見た目じゃなくって味だよな、うん。
俺は箸で切れなかった卵焼きを、そのまま持ち上げてまた唾を飲み込んだ。
「い、いただきます」
ガリゴリ、シャリシャリ。
セイバーがじっと見つめている、何かコメントが欲しいのかもしれない。
だけど、俺の口の中はそんなこと言える状態じゃない。
ごめんセイバー、俺は嘘はつけない……事、料理に関しては、だからっ。
「シロウ?」
「…………ごふっ」
「シ、シロウ!?」
俺は屋敷の中を駆け抜けて、目的の場所にたどり着いた途端―――。
※しばらくお待ちください
なんとか持ち直して戻ってきた俺は、腰を下ろすとセイバーを見つめた。
「セイバー」
「は、はい」
「セイバーはさ、俺の作った料理を美味しそうに食べるのが好きだ」
「シロウ……」
「だからさ、これからもご飯作ってやるからな」
「そ、そそそそれはもしかして求婚……」
「シロウ、今度はわたしのをどうぞ」
「な、ライダーっ!?」
何か言おうとしたセイバーをさえぎって、自分の料理を差し出した。
顔を赤くして黙り込んだセイバーをちらっと見てから、ライダーは俺に微笑みかける。
だけど、そんな笑顔で誤魔化されない料理に俺の視線が釘付けだ。
「ライダーのはなんて料理かな?」
「おみそ汁です」
「みそ汁ね……で、具はなに?」
「すいません、冷蔵庫の中にあった物を使わせていただきました」
それじゃあ、一応食べられるものだよな、なら大丈夫……かなぁ。
でも、俺が知っているみそ汁に、こう沼のような色って知らないんだけど。
とにかく食べるか。
だが、伸ばした手を押さえて、ライダーがお椀を持ち上げた。
「え?」
「シロウ、わたしが食べさせてあげます」
「ど、どうして?」
「少しでも恩返しがしたいのです、だめですか?」
「そ、そんなことはないけど」
「そうですか、ではシロウ……」
「んんっ!?」
「「「「あーーーーーっ!?」」」」
みんなの注目する中、ライダーの口移しに体が硬直した。
そして俺は味わったことのないみそ汁の味のダブルアタックに、意識を奪われていた。
天国と地獄って案外身近にあるんだなって、今日初めて知りました。
その日俺は一日中唸りながら、夕飯を食べに来た藤ねえに叩き起こされるまで、生死の境をさまよっていた。
久しぶりに親父と話ができたことが、唯一の良いことだった。
つづく。
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