真・アサシンが唐突に復活して桜のサーヴァントになってから2週間が過ぎ去った。
違和感の塊だった奴もいまではすっかりこの家に融け込み充実した毎日を送っている。
って、いいのかそれで。
鼻歌を歌いながらてきぱきとアイロンを掛けるアサシン。
はっきりいって不気味だ。
全くもって気に食わない。なんであんな奴が俺の家の一家団欒に混じっているのか。
「・・・」
障子の縁をスッとなぞり埃をすくってみせる。
狼狽したアサシンを冷たい目で睨んでいると・・・。
「小姑ですか、先輩は!!」
パカンッと桜に後頭部をはたかれた。
うう、いいツッコミだ桜。
「桜。いまさらだけどコイツをここに置いておくのは反対だ。いつ裏切って寝首を掻かれるかわかったもんじゃない」
「また、その話しですか?だいたいアサシンが私達を殺したってなんの得もないじゃないですか。寧ろ魔力の供給が途絶えて消えちゃうんですよ?」
全くその通りなんだが他に有力な論拠はないわけで。
「じゃあ、せめて遠坂邸にいさせろよ。向こうだって掃除の仕事がいっぱいあるだろう」
「先輩、アサシンをこの家に置いておくのは先輩を監視、ゲフン、守らせるためです」
そうなのだ。聖杯戦争が終わったとはいえ脅威が全く無くなった訳ではない。
特にアインツベルンの一族は俺を殺すこと以外は考えられない状況にあるのではないか。
なにしろ親子2代で彼らの宿願を打ち砕いてしまったのだ。俺に至っては大本の大聖杯まで破壊して二度と奇跡が起きないようにした。
千年もの辛苦が全て水泡と帰した今、彼らの頭の中にあるのは復讐の2文字だけであろう。
「せっかくサーヴァントが2体もいるんだからお互いの護衛にするべきです」
桜の言う事は確かに筋が通っている。
しかし、こんな怪人に四六時中付き纏われる俺の身になって欲しい。
「なあ、ライダーと取りかえっこ・・・」
「……」
「いや、何でもないです」
危ない。DEAD ENDの匂いがした。タイガースタンプを貰ってしまう所だった。
「ともかく、もうしばらくは我慢して下さい」
しばらくっていつまでだー、なんて俺の無言の抗議は目線で却下された。
「こんちわー、アサシン元気してるー?」
俺の悩みをどこ吹く風に姉貴分はしっかり奴を受け入れている。
「はい、これ頼まれたビデオ」
「へえ、ありがとうござんす」
そうアサシンは任侠映画にかぶれてしまった。
元々が暗殺集団なんて裏社会の人間だったので、この国の裏社会の組織に興味を持ったのだ。
当然のことながら近所の藤村組に接近し、なんと組長である雷河の爺さんから杯まで貰ってしまった。
「おい、仮にも教職者が暗殺者なんかと仲良くするな」
「なんでー、士郎ってば職業で人を差別するような子だったのー!?よよよ、お姉ちゃんは悲しいよう!」
差別するだろう普通。
「アサシン、もしここにいるのが辛くなったら家にきてね。昔は家も暗殺者の1人や2人、面倒見たもんよ」
マジですか。
「えっと、なんか東洋系でスイスの銀行に口座持ってる人がいたよう。その人、すごい眉毛が太くて絶対笑わないの」
えらい大物ですな。
「姉さん、いいですかいのう」
「ああ、今終わる」
ライダーは静かに仮面ライダーのビデオを見ていた。
エンディングテーマが流れ、地獄大使の次回予告が終えるといそいそとビデオを取り出す。
「ん」
「へえ、すいません」
えらくライダーに腰が低いアサシン。本当にこの国の芸人システムなんてものを受け入れているんだろうか。
「ふう、ようやく地獄大使編も終わりそうです。この分では今月中にV3までは見終えることができそうです」
ライダーは最近仮面ライダーの研究に余念がない。なんでも近所の子供と遊ぶのに必要不可欠な知識だそうだ。
「おもしろい、ライダー?」
桜は仮面ライダーの話題なるとひどく不機嫌になる。何故だろう。
「はい、士郎が言う正義の味方とはこういったものでしょうか」
「いや、それはだいぶガキの話。俺がなりたかった正義の味方ってオヤジみたいな奴だった」
だった、と過去形になってしまった俺の夢。だけど後悔はしていない。何かを犠牲にしなきゃ守れないものがあるのなら何度でも俺は同じ選択をするだろう。
「先輩…」
すまなそうに俺を見つめる桜。気まずい雰囲気が場を流れる。
「士郎はサクラを守ってあげて下さい。正義の味方には私がなります」
無表情なライダーの口元が僅かに微笑んだような気がした。
ライダー1号のポーズを取っていなきゃ、いいシーンだっただろう。
「オンドリャア、カバチたれとるとシバキたおすぞ、ゴラアァ!!」
「ええのう、ケンさんは」
コイツは。
ともかく奴が気に入らない。
だいたい桜も桜だ。かつて敵だった奴をあんなに信頼していいのだろうか。
今は上手く溶け込んでいるがそのうちボロをだすんじゃないか。
風呂にでも入って少し気持ちをリラックスしよう。こう張り詰めた気分じゃ名案なんて浮かんでこない。
「ふう。」
熱いお湯の中で手足を伸ばすと一日の疲れが取れる。
セイバーとの別れから剣の鍛錬を続けるのは日課になった。独学では無理があるので藤ねぇに手ほどきをしてもらっている。
彼女に追いつく筈はないにしても少しでも近づきたい。それが俺にできる唯一の償いなのだから。
「士郎サン、お背中流しましょうかのう。」
「ぶっ!」
人が感傷に浸っているといきなりアサシンの奴が入ってきやがった。
「手前ぇ、何勝手に入ってやがんだ!!」
「いや、お背中流そうと思って・・・。」
「とっと出て行け!」
「へえ、すいまへん。」
うー、何なんだコイツは。
「士郎サン・・・。」
「何だよ。」
「結構いい体してますのう。」
風呂桶を投げつける。むろん簡単にかわして逃げ去るアサシン。
何なんだ、このドッキリイベントは!?
ポイントが入るのか、アサシンに!?
その翌日は一日中ムシャクシャして過ごした。
学校が終わるとそのまま商店街に買出しに入った。あの野郎の分も買わないといけないと思うとさらに苛立った。
「バカヤロウ!」
なにやら怒鳴る声が聞こえた。
どうやら路地裏からのようだ。カツアゲかなにかなら止めなければならないだろう。
そこに居たのはアサシンと藤村組の若い衆だった。
バキィ!!
アサシンが思いっきり若衆の頬げたを殴った。
「す、すいやせん兄貴っ!」
いつのまにやら奴のステータスがアップしている。
「ワシたちやくざは、暑い日は日陰を堅気の衆に譲り日向を歩く、逆に寒い日は日向を堅気の衆に譲り日陰を歩く、それが渡世の仁義ってもんだろうが!!」
詳しいな、オイ。
「ワシたちみたいな日陰モンが堅気の衆に手ぇ出しちゃあいけねえ、コイツはオヤッさんが口を酸っぱくして何時もいってることだろうがっ!!」
へえ、とうな垂れる若衆。確かに雷河の爺さんに堅気に手を上げたことが知られたら大事になるだろう。
「オヤッさんには黙っててやるから二度とこんなことをするんじゃねえぞ。」
「え、兄貴!」
「お前が最近何か悩んでるのは薄々気づいてた。水臭せえじゃねえか、堅気の衆に八つ当たりするぐらいなら、ワシに相談しろ。」
「兄貴!」
感涙に咽び泣く若衆。
「ワシはお前がそんなチンケな人間だとは思いたくはねぇ。いつか藤村組の看板を立派にしょって立つ男になってもらいたいのよ。」
「うう、すいやせん兄貴。」
ボロボロと泣きながら路地の奥へ消えてゆく若衆。
「へっ、士郎サン、つまらねえもんを見せちまいましたね。」
「…いや、何て言ったらいいか。」
「あんな奴でも根はいい奴なんですよ。ただ生きるのに少し不器用なだけでね。」
オマエはホントにアサシンカ。
「おっと、買出しですかい。ワシが持ちましょう。そんなにいっぱい重いでしょう。」
チカヨルナ。
俺の脳がフリーズ直前になった時、それは起こった。
「エミヤシロウ?」
「はい?」
無意識に返事をして振りかえる俺。
いきなり目の前で魔力の塊りが爆ぜた。
アサシンの放ったダガーが襲撃者の攻撃を相殺したらしい。
「士郎サン、しゃがんで!!」
アサシンの指示に無意識に従って地面に伏せる。
俺の頭の上を、凄まじい風切り音をともなった何かが通り過ぎた。
直後、黒い影が俺に覆い被さり、激しい衝撃が奴の体から伝わってきた。
アサシンは俺を庇って負傷していた。
「ちっ!」
仕留め切れないと判断した襲撃者の靴音が遠ざかる。
「アサシン、大丈夫か!?」
「へっ、これしきの傷なんとも。」
うっ、唸り身を屈めるアサシン。
「バカ、強がるな。」
アサシンのマントを破り応急手当をしてやる。
「へへ、士郎サンには嫌われているとばかり思っちょりましたが。」
「ああ、安心しろ。今でも嫌ってるよ。」
「へへ、やっぱワシはこんなんじゃけんのう。」
「いや違う、俺が嫌っているのは、その外見じゃなくて…。」
「無理せんで下さい。ワシのような化け物を好いてくれる物好きなんぞ…。」
「バ、バカヤロウ、何でそんな卑屈になるんだ。」
いかん、奴の不思議空間に引きずり込まれて行くのが解かる。
このまま突っ走れば破滅ですよー、と割烹着を着た小悪魔が耳元で囁いている。
「士郎サン、優しいウソが人を傷つけることもあるんですよ。」
頼むからやめてくれ。
「ち、違う。アサシンは、その醜くなんて無い。」
だれかとめてー。
「士郎サン。」
「その、とっても、綺麗だ。」
「…嬉しい。」
ってなんでそこだけ女言葉なんだー。
フラグが立っちまったのかー。
ぷりーずへるぷみー。
続く
次回予告
否定しつつもお互いを意識しあう士郎とアサシン
「士郎サン、目玉焼きにソースはどうかのう。」
「うるさい。」
間桐桜を含めたどろどろの三角関係
「先輩とその間男を殺して私も死にます。」
「それ、コピーした文章だろう桜。」
事態の推移を見守る黒衣の騎兵。
「静かにして下さい。テレビの音が聞こえません。」
「ごめんなさい。」
そして遂に訪れる赤い悪魔。
「ごめん。ちょっと予定が取れなくて帰れないわ。」
「残念です、姉さん。」
浅上の酒屋の娘も裸足で逃げ出す士郎×真・アサシンの禁断の世界が今開かれる!?
COMING SOON!!
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