残照 その一

 朝だ。
 窓から弱い日の光が差し込んでいる。
 昨日は桜と愛し合った。
 微かな呼吸音が聞こえる。桜はまだ俺の腕の中で眠っているようだ。
 ゛桜を守る″そう俺は誓った。だから彼女の安らかな寝顔を見られる事は俺にとって最高の幸せだ。

「おはよう、桜・・・」
「おはよう、魔術師殿」

 ……。
 そこに骸骨の面があった。

「真・アサシン?」

 ぎゃあああーーーー!!!!

「先輩!?どうしたんです!?」
 俺を起こしにきたらしい桜が襖を勢いよく開けた。
「・・・!!」
 裸の俺とマッチョな怪人が同衾しているという絵にも描けない場面が展開してる。
「・・・先輩の浮気者」
 出刃包丁をスチャッと構える桜さん。なんで起こしにくるのにそんなものがヒツヨウナンデスカ。
「まて、桜」
「まさか、先輩がそっちのほうの人だったなんて!しかも、そんなマッチョが趣味だなんて、サムソンすぎます!」
 サムソン?
「きー!私は騙されてたんですね?先輩のアブノーマルな性癖を隠すための偽装結婚だったんですね!」
 いや、まだ結婚してないし。
「先輩とその間男を殺して私も死にます」
 またそれか。
「落ち着かれよ、マキリの娘」
「黙れ、間男!」
 出刃包丁を持って突進する俺の最愛の人。
 しかしアサシンは恐ろしく俊敏な動きでそれを交わし、一跳躍で部屋の天井の隅に張り付いた。流石、俊敏さならばどのサーヴァントにも引けを取らなかっただけはある。
「・・・」
 獲物を逃がしたハンターの標的が俺に移ったようだ。
「助けて、ライダー!!」

「トウッ!!」

 いきなり実体化したライダーは空中からライダーキックを桜の後頭部に叩き込む。
「ぐはっ!!」
 昏倒する桜。
「助かったよライダー。しかし容赦のよの字もないな」
「正義の味方は悪を絶対に許しません」
 なんだか、けっこう日本の文化に感化されちゃったみたいなライダー。



「それで、どうしてお前がまだ存在しているんだ?」
「どうやらマキリの娘は私を消化しきれなかったようで」

 俺達は居間でお茶を飲みながらアサシンから詳しい事情を聞いていた。

「消化しきれなかった?そんなコーンの粒みたいな…。」
「下品な例えはやめてもらいたいな、若い魔術師殿。私は前のアサシンから具現化した後ランサーを吸収した身、そのような複雑な経緯が影に完全に飲み込まれなかった原因だと思うのだが」
「しかしなんでまだこの時代に存在していられるんだ?聖杯はもうないんだぞ?」
「どうやらマキリの娘、サクラ殿が私の新たなマスターになったようだ」
「そうなのか、サクラ?」
「えっと、よく覚えてません。あのときはようやく力と意思を制御できるようになったばかりですから」
「で、なんで今更出てきたんだ」
「私が意識を回復したのは遂最近のことだ。サクラ殿の内に潜む殺人衝動がきっかけで目が覚めた」
「「あー。」」
 納得する俺とライダー。
「あー、ってなんですか!あー、って!」
 いや、そのまんま肯定の意味。
「そんなわけでオレ、ゲドウ真・アサシン、コンゴトモヨロシク」
「よろしくじゃねぇ!!」
 星一徹ばりにちゃぶ台をひっくり返す俺。
「私がサクラ殿のサーヴァントになるのは不満か、若い魔術師殿」
「あたりまえだ!!だいたいお前にはなんども殺されかけているし、セイバーとあんな事になっちまったのもお前のせいだ!!蟲ジジイの元サーヴァントなんて俺は絶対にみとめないからな!!」
「ほう、意外と料簡が狭いな、魔術師殿」
「なんだと?」
「第一に私が魔術師殿を狙ったのはマスターの命にサーヴァントとして従ったまでだ。サーヴァントである私が他のマスターを狙うのは当然の事だ」
「それは…」
「それにセイバー殿は戦いで降した。聖杯戦争で優位に立つための常套手段だ」
「そんな言葉で納得できるか!!」
「ならば、なぜサクラ殿とライダー殿は許せる?殺されかけたというのならばライダー殿も一緒。セイバー殿を操ったというのならサクラ殿も同様であろう」
 むう、やけに弁が立つなコイツ。蟲ジジイの影響か。
「それに、もともとこれは私とサクラ殿の問題。いかに魔術師殿がサクラ殿と恋仲であろうとも口を挟む権利はないと思うが」
「桜、どうなんだ、本当にこんなヤツをサーヴァントにするのか?」
「こんな奴とは酷いな。私とて魔力を供給してもらえるのならば全力で主に忠誠を誓おう」

 じっと、2人の男に詰め寄られる桜。

「えっと、ごめんなさい。先輩が嫌がっているし、私もお爺様の元サーヴァントと上手くやっていく自信がないから・・・」
 だから消えちゃってください、と言いにくい事をズバッと言う桜。それでこそ桜だ。



「サクラ殿、耳をお借りしたい。」
「は、はい。」
 何やらサクラにごにょごにょと囁くアサシン。
「私の特性は隠密行動だ。つまり誰にも気づかれずに人の動向が探れる。」
「・・・。」
「そう、サクラ殿の想い人に悪い虫が付かないか調べられるし、もし付いた場合は暗殺者としての本業をサクッとこなす覚悟もある」



「先輩、せっかくのサーヴァントなのですから無下に消し去るのもどうかと思うのですが。」
 げ、何故か180度転換。
「おい、ライダーからもなんか言ってくれよ!」
「そうですか、貴方がサクラのサーヴァントとなるのならば日本の芸人システムでは私は貴方の姉弟子ということになりますね。これからは私のことを姉さんと呼ぶように。」
「はい、姉さん。」
 いつから芸人になったんだライダー。



 こうして、アサシンは正式にサクラのサーヴァントになった。主な仕事は掃除に洗濯だ。あの異様な右腕は戦闘以外にも手の届かない汚れを落とすのに役立っている。まあ、確かに役に立っているが俺は不満だ。どうにもアイツに監視されているような気がしてならない。




後書き

 たぶん、ほとんどの人が書かないであろう真・アサシンのSSです。
 ニッチもサッチもいきませんがあと1話ぐらい続けたいと思います。
 お暇でしたら読んで下さい。

2004.02.25 岡崎