ギル様とネットオークション

「ぬう、まさかエクスカリバーが出品されるとは」
 静謐に包まれた聖堂の中でノートパソコンのキーの音だけが耳障りに響く。
 人類最古の英雄王ギルガメッシュは唸りをあげた。
「かの騎士王も手元不如意という訳か。ふ、まああの雑種がマスターでは無理も無い事だがな。」
 黄金のサーヴァントは歪んだ笑いを顔に浮かべる。
 コツコツと渇いた足音が鳴り響く。この教会の主がやってきたようだ。
「何をしているギルガメッシュ」
 不遜とも倣岸とも違う種類の人を威圧せずにはいられない声が問い掛ける。
 無論、如何なる威圧をも感じたことのない英雄王にはただの質問を投げかけられたにすぎない。
「見ろ、言峰。騎士王は自らの宝具を手放してまで主の家計を助けたいらしい」
「ほう、あの剣を売りに出すとは。確かに何回も使えるという訳ではないが、彼らにとって命綱とも言える切り札を手放すとは、自殺行為としか思えんな」
「貧すれば窮すだ。全く甲斐性の無いマスターにつくと苦労する」
「まあ、如何なる道を選ぼうが人の自由だ。例えそれが棘の道であったとしてもな」
 人の運命を祝福するように神父は告げる。
「ふっ、まあこの程度の値段ならはした金とも言えん。我がこの剣を手にしたと知ったときの奴らの顔が目に浮かぶわ」
 新たな宝具のコレクションに至高の聖剣を加えられると思うと、流石の英雄王も精神の高揚を抑える事が出来なかった。
「早速、入札・・・」
「待て、ギルガメッシュ。こういうオークションは終了間近で値が跳ね上がる。今入札しても値を釣り上げるだけだ」
「回りくどいことは好かん。俗人どもが手が出せないような値を付けてやろう」
 それだけの価値が彼の剣にはある、とギルガメッシュは圧倒的な数字を書き込む。
「ふむ、確かにお前の財力に立ち向かえる輩がおるとは思えんな」
 納得した神父は扉に向かう。
「どこに行く」
「食事だ」
 またマーボーかと聞くのも野暮だったので英雄王は黙って見送った。



 マーボーパワーを120%充電した神父が帰ってきた。
「どうなっている?」
「うぬ、俗人どもが我に刃向かうとは」
 どうやらかなり競っているようだ、と判断した神父は画面を除きこむ。
 先程の数字が圧倒的だとしたら今の数字は絶望的とでも言えばよいのか。子供が冗談で思いついたような値に跳ね上がっている。
「ほう、聖剣の価値を知り得るものが存外多いということか。そうだな、確かにアインツベルンやマキリや遠坂なら喉から手が出る程に欲しい代物だからな」
 最も神父の弟子にはこれだけの額はだせない。のこりの2つの家系が英雄王と競っていると見るべきだろう。


 商品の情報

 アーサー王で有名な、約束された勝利の剣です。
 ご覧の通り開封済みで、何度も使用していますが、刃渡りなどにはキズもなくキレイです。
 完全な品ものを求める方はご遠慮して下さい。

 よろしくお願いします。




 しかし、こんなにおおっぴらに宝具を公開しても良いのだろうか。魔術協会に知られたら即、封印指定にされそうだ。聖杯戦争の監督官としては無視の出来ない暴挙だったがおもしろいので黙っていようと言峰は決めた。
「おのれ、これでどうだ!」
 衛宮士郎が見たら卒倒しそうな金額が入札される。
 が、すぐにそれを上回る値がつけられる。
「馬鹿な・・・」
 流石の英雄王にも焦りが見え始めた。確かにこのサーヴァントは無尽蔵の富を吸い寄せる能力を持っている。しかし隠遁生活を余儀なくされた個人の力で巨大な組織と勝負するのは分が悪いということか。
「ギルガメッシュ、そろそろ終了の時間だ。自動延長はないから思い切った額を入力しなければ競り負けるぞ。」
「解かっている!!」
 完全に熱くなっている。この唯我独尊の男が自分を見失うとは珍しいと、言峰は冷めた視線で眺めていた。

「・・・」

 およそ動じるということに無縁な神父の眉が上がる。恐らくオークション史上最高額がつけられた。



 おめでとうございます! あなたが落札しました。



「ふ、ふはははは!!やったぞ、遂に手に入れた!!」
 哄笑が聖堂に響き渡る。ギルガメッシュは狂ったように笑い続ける。
 最強のサーヴァントが最強の聖剣を手に入れた。これがどういうことか、聖杯戦争に少しでも関わりのある者なら戦いというもの自体に意味が無くなったことに容易に気づくだろう。
「ふむ、これで全てが決したということか」
 言峰は最も古い奇跡の一つを争う戦争がネットの上でついてしまったことにいささか落胆した。
「不満か言峰」
「いや。だがいささか拍子ぬけしたと言わねばなるまい」
「回りくどい事が好きな男だ」
「性分でな」



 毎度ありがとうございます
 衛宮士郎と申します。
 この度は落札していただいてありがとうございます。
 短い間ですがよろしくお願いしますね。
 品名:約束された勝利の剣
 定型外郵便は郵便事故等の責任は一切負いかねます。
 ご了承ください。
 送料には手数料などが含まれています。
 上記の条件で宜しければ下記口座にご入金ください。
 ご入金後に振込先銀行名お知らせください。
 お知らせいただけない場合は手続きが遅れる場合がございますのでご注意ください。




「ふっ、雑種が鷹揚なことだ」
 禍々しい紅い瞳は獲物を狙う猛禽のような鋭さを持っていた。



 はじめまして
 金ピカことギルガメッシュといいます。
 取引が終了するまで宜しくお願いします。




「・・・意外と礼儀正しいのだな」
「最後に余計なトラブルを起こしたくない」



 3日後

「ギルガメッシュ、荷物が届いたぞ」
「おお、これで我は完全に無敵となったわけだ」
 ギルガメッシュは乱暴に包みを破る。
「・・・」

「何じゃあああーーー!!!!こりゃあああーーーー!!!!」

 中に入っていたのは虎のストラップの付いた竹刀であった。
「ほう、ネット詐欺か。衛宮士郎が行うはずがないから凛の仕業だな」
「くっ、言峰!」
「何だ」
「金を貸せ」
「断る。だが食事ぐらいは奢ってやろう」
「・・・マーボーか?」
「無論」
「・・・」
「食いたくないのか?」
「食うか!」





「おい、遠坂!!お前、俺の名前で詐欺を働いただろう!」
「何のこと?」
「すっとぼけんな!セイバーにエクスカリバーの写真を記念に撮っときたいなんて言いやがったそうだな!ネタは上がってんだ!」
「くっ、しょうがないじゃない。私もいっぱいいっぱいだったのよ」
「お前、犯罪だぞ」
「大丈夫よ。どうせアインツベルンかマキリの一騎打ちになるんだから、敵を騙して何が悪いのよ!」
「開き直るな!」
「まあ結局金ピカが競り落としたから結果オーライよ。これで時計塔への留学資金が出来たわ。この戦いに生き残れたら士郎も一緒に連れていってあげる」
「お前なあ。しかも藤ねぇの虎竹刀まで盗みやがって」
「藤村組の人にいったら喜んでくれたわよ?やっぱエクスカリバーの贋物ともなるとあれぐらいの妖刀じゃないと」
「俺は知らんぞ。お前が藤ねぇに説明しろよな」

「うわーん!遠坂さんが私の血と汗と涙の青春の思い出を売っぱらったあーーーー!!!!」
「士郎、後は任せた」
 ダッと逃げ去るれっどざでびる。
「おい、コラ待て!」
「士郎もグルなんて酷い!!悪即斬!!」
「藤ねぇ、銃刀法違反だぞ!?」

「斬!!」





 最終決戦

「準備はいいか英雄王・・・。というか何かやつれたなお前」
「・・・ここ数日マーボーしか食していない」

 よれよれのギルガメッシュ。

「そりゃ気の毒に」

 心底同情する士郎。

「五月蝿い。もとはといえば貴様が!!」
「俺は関係ない。全部赤いあくまの仕業だ」
「黙れ。我の怒りを受けろ!!」

 ふよん、ふよんと浮く虎のストラップをつけた竹刀。どうやら思考能力が著しく低下しているようだ。

「投影開始――」

 士郎の投影した宝具にあっさり破壊される虎竹刀。投影された宝具は、そのまま英雄王の額に突き刺さり命を奪う。

「シロウ、もう倒してしまったのですか、驚きました!」

 駆けつけるセイバー。

「何だかなあ」

 これが結果オーライという奴か。
 せめて虎のストラップぐらいは持って帰るかと、拾い上げる士郎。
 この行為が悪夢の魔剣、虎竹刀Uを生み出す原因となるとは神ならぬ少年には知る由も無かった。




後書き

Fate3作目です。
もう滅茶苦茶自由に書いてます。
ギル様ファンは寛容な目で見て下さい。
悪気はない、と思います。たぶん。

2004.02.25 岡崎