玖我家の遺伝

 媛星がもたらした騒動から開放された風華学園。
 今日も平和な学園生活を満喫すべく、生徒たちが校門をくぐって校舎へと向かってゆく。
 空は快晴、爽やかな朝の空気が風に乗って駆け巡り、道ゆく生徒たちに朝の活力を与える。
 それはとても美しい平和な情景だった。

 どっごおおおん

 そんな平和な情景の真っ只中で爆発音が鳴り響いた。
 爆発音――いや、そんな生易しいものではない。ガス爆発のような『事故』で起こりうる爆発音ではなく、何かが何かを――自らの敵となるものを排除するための『戦闘』で起こりうる爆撃音。
 それはこの平和な風華の地でいまだ戦闘行為が繰り返されている証。
 しかしここは風華学園。
 あの媛星の戦いの中心におかれながら滅ばなかった学園である。
 生徒たちは執行部の誘導に従い的確に避難を行い、数分と経たずに危険地域から人はいなくなる。
 そして周囲の建物にはガシャンガシャンと音を立ててシャッターが下り、建造物への被害を未然に防ぐ。
 そこは学園に出来た一つの空白地帯。
 そこにいるのはさっきの爆撃の当事者しかおらず、それはつまり、
「祐一?」
 灼熱の翼を持つ鳳凰――カグツチを従える鴇羽舞衣と、
「祐一?」
 絶対零度の魔弾を放つ銀狼――デュラン・マックスハートを従える玖我なつきと、
「さあ祐一? 今日こそきっちり――」
「どっちがいいのか白黒はっきり決めてもらおうか」
 そういって詰め寄られる楯祐一のただ三人だけだった。
 そして、そうおっしゃられても何て言えばいいのかわからないというか一度は結論出した気もするけど色々あってやっぱり俺も男なんだから悪い気はしないよな、とかちょっぴり思った愚かな男は。
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁ……」
 例によって例のごとく二人の攻撃の余波をくらって今日も元気に空を舞っていた。
「しかしまあ、そういうことなら――」
「しょうがないわね」
 そしてまた二人は対峙する。
「祐一が決められないって言うんなら――」
「どっちがアイツに相応しいのか――」
「「勝負!!」」
 そして今日もエンドレスハイパーデュエルの幕が開く。





 玖我家のマンション。
 リビングのテーブルを挟んで玖我なつきと母親であるところの玖我紗江子が対峙していた。いや、対峙って言うか向き合って座っているだけだけど。
 ちなみに部屋の隅の方ではアリッサと深優があやとりをしているがそんなことはどうでもいいので割愛。
「しかしなつきちゃんも凄いわね。まさかあのシャッターを破壊するとは思わなかったわ」
 シアーズ財団特製シャッター。対弾・耐熱・その他もろもろの耐久力に優れ戦車砲やあまつさえチャイルドの攻撃すらも跳ね返すと言う逸品である。
 そのシャッターがわりとあっさりばきゃんと粉砕されたと知れればシアーズの技術者たちは頭を抱えるだろう。いやまああっさりばきゃんと粉砕されたわけだが。
「別に私が壊したわけではない」
「まあ、確かに。デュランでいくら冷やされたって、それぐらいじゃあのシャッターはびくともしないわ」
 繰り返すが、シアーズ財団特製シャッターは天下無敵である。シャッターの強度テストには各種重火器・戦車砲・更にはチャイルドの中でも破壊力に定評のある光黙天と愕天大王による破壊テストまで行なったのだ。
 まあさすがに後者二つに関しては無傷とは行かなかったけれど、それでも十分な防御力を見せつけ、風華学園に導入された。それが実に三日前のこと。
「でもまあ、ダイヤモンド・カートリッジでほぼ絶対零度まで冷やされた直後にカグツチの超高熱火焔を受けたらひとたまりもなかったわね」
 極低温と超高温のほぼ同時攻撃。
 さすがのシアーズ技術陣もそんなものまで想定はしていなかったのだが、この風華学園においてその攻撃はありふれていると言うかヘタすると毎日起きる現象なので、それに耐えられないシャッターに用は無い。
 そんなわけでシアーズ財団特製のシャッターはクーリングオフ期間中だったため無償で取り外され、今頃技術陣が泣きながら改造型シャッターを開発しているのだと思われる。
 まあ、そんな話はどうでもいい。
「まあ幸い理事長さんも弁償しろとは言ってこないし。何故かあれだけやって怪我人はほとんど出てないからいいんだけど」
 ちなみに『ほとんど』に入らない怪我人は冒頭を見ればわかる通り楯祐一である。
 騒動と言うか二人の闘争の中心には必ずいるのでケガをしないわけがないのだ。
 と言うかケガだけですんでいるあたり運とかそういうものだけじゃない何かがあるのでは無いかと言う説もあるが、それもこの際どうでもいい。ちなみに今回も全治一週間の打ち身だけで済んでいる。
「それでもこう毎回呼び出されると、ママご近所の皆様にどう顔向けしたらいいのか!」
 紗江子ママはそう言ってポケットからハンカチを取り出しよよよ、と泣き崩れる。
「だから私のことは放っておけと言っているだろう!」
「そんな! せっかく家族四人で暮らせるようになったっていうのに、この生活に何か不満が――」
「不満はないが、やつとの決着はつけなければならない!」
 そういってなつきは席を立ち、そのまま家を出て行こうとする。
 後ろで泣き崩れる母を置いて。ついでにリビングの隅で四段はしごを完成させたアリッサに惜しみない拍手を送っている深優も置いて。
 しかしその背中には声がかけられる。
「待って!」
 母の声。
 なつきがあれほど望み、やっとのことで取り戻した母親が自分を呼び止める声。
 しかしそれでも行かなければならない。
 アイツへの思いを捨てないと決めたんだから。この思いは成し遂げると決めたんだから――
「勘違いしちゃダメ」
「……は?」
 予想していなかった台詞になつきは思わず間抜けな声を出し、反射的に振り向くと母は泣いたりしていなかった。
 平たく言うと嘘泣きだった。
「えーと」
「深優」
 すっくと立ち上がり、そう言って紗江子ママが指をぱちんと鳴らすと深優が部屋の隅にたらされていたロープをぐいと引っ張る。
「これを見なさい!」
 バァーン、と。
 漫画だったらきっとそんな擬音が書かれるだろうと言う感じで現れた看板に書かれていた文字は。

『第一回 玖珂家家族会議〜なつきちゃんの恋を応援するために〜』

 そんな文字だった。
「……何?」
 そして、何が起きたのか理解できずに唖然とするなつきをよそに、
 何故かぱちぱちと拍手をしているアリッサと、
 恭しく礼をする深優の前で、
「そんなわけで、なつきちゃんの恋路を全力で応援しようと思います!」
 紗江子ママは高らかに宣言した。
「いやちょっと待てお前ら」
 とりあえずなつきは冷静に突っ込んだ。
 しかし誰も聞いていなかった。
「なつきとは幼いころ離れ離れになって、やっと再会できたと思ったら敵味方で」
「いやそれ全部母さんの策略どおりだろう」
 当然誰も聞いてくれなかった。
「やっと仲良く暮らせるように鳴ったなつきに、少しでも幸せになって欲しいと言う親心! アリッサ、深優、手伝ってくれるわね?」
「うん」
「わかりました」
 えいえいおー、と。
 三人は意気投合して声を上げる。無論なつきの意見は聞いていない。
 もうなんか口を挟むのも疲れてきたので、なつきは冷蔵庫からマヨネーズを取り出した。
 まだ何か話し合っている三人を尻目に、カップラーメンにお湯を注いで3分待つ。
 キッチンタイマーが電子音を鳴らすのを確認して蓋を開け、その上からおもむろにマヨネーズを――
「で、なつきはあの楯クンって子が好きなのよね」
 照準誤ってテーブルの上ににゅるにゅるとマヨネーズを搾り出した。
「い、いきなり何を!」
「違うの?」
「いや、まあその通りだが……」
 乙女チックにもじもじとしながらそう答えると、未だ握ったままだったマヨネーズはそのまま出続けてテーブルの上にアートを形作る。
「深優、あれ掃除して」
「かしこまりましたお嬢様」
 アリッサの的確な指示によりテーブルの上に広がるマヨネーズの山は拭き取られ、ほとんど空だったマヨネーズの容器は奪い取られた。
 そんなことはどうでもいい。
 紗江子ママの話は続く。
「ライバルっていうのは鴇羽さんのことでいいのよね」
「う……まあ、その通りだ」
 なつきがそう答えることはもう既に予想していたのか、紗江子ママは懐から端末を取り出すとなにやら高らかに読み上げた。
「鴇羽舞衣。風華学園一年A組、なつきの同級生でクラスメイト。両親とは死別、弟である鴇羽巧海は中等部一年生として在学中――この辺はいいわね」
「ちょっと待て母さん、何を読んでるんだ」
「敵を知り己を知らば百戦危うからず」
「いやそれ、答えになってないから」
「元理事長を甘く見ないで欲しいわね」
「……もういい」
 こめかみを押さえて俯くなつきをよそに、紗江子ママは読み上げ続ける。
「身長157cm、体重46kg、血液型はO。誕生日は7月22日のかに座でスリーサイズは87/56/83って何この娘。本当に高校一年生?」
 そう言って紗江子ママは自分の娘の胸を見てハァ、とため息をついた。
「母さんだって大して変わらないだろう!」
 勿論娘の意見など聞く耳は持たない。母は強いのである。
「成績は中の上、授業態度は特に問題なし、特技は料理。料理か……」
 そう言って紗江子ママはテーブルの上を見る。
 テーブルの上には一面のマヨネーズと伸びきったカップラーメン。
 まあマヨネーズはほとんど拭き取られてはいるが。
「……ハァ」
 ママの溜息アゲイン。
「母さんだって大して料理できないだろう!」
「馬鹿にしないで! ケチャップライスは得意料理よ!」
「……くっ!」
 料理に関してはかすかに娘に勝っているらしい。本当にかすかにだが。
「わ、私だって自家製マヨネーズなら作れるぞ」
「なつきちゃん、それは料理って言わないの」
「くそっ……!」
 とりあえず料理に関して一日の長があると言う事になったらしい。
 何か一日どころか一時間とか一分ぐらいの長じゃないかと言う気もするが。
「深優、私もダメなのかしら」
「お嬢様には未来があります」
「ありがとう、深優」
 ひしっ。
 テーブルの向こう側ではマヨネーズ掃除が終わった深優とアリッサが絆を深め合っていた。とりあえず微妙なレベルで行なわれている親子間の争いに関わりあう気はないらしい。





「……さて、そんなわけでなつきとそのライバルであるところの鴇羽さんとの戦力分析は終わりました」
 紗江子ママがそう言ったのは端末で個人情報(無断)閲覧を開始してから三十分後だった。
 なんだか活き活きしているママと疲れ果てているなつきが対照的である。
 しかしそれでも紗江子ママは止まらない。と言うかここで止めては可愛い娘の弱点さらけ出して精神的ダメージを与えただけである。これからこの弱点を埋め、ライバルに打ち勝てるようにしなければ意味はない。
 紗江子ママは眼鏡の縁をくいっと直し、口を開いた。
「鴇羽さんに勝つために何をするべきか――意見のある人はいますか?」
 呼びかけに答えて手が上がる。
「なつき」
「もういいからほっといてくれ」
「却下します」
 ノリノリのママは止まらない。
 もはや本人の意思の介入する余地はないらしい。
「はい」
「はい、アリッサ」
「深優に調理を教えてもらえばいいと思うの」
「さすがアリッサ。やっぱりそうなるわよね」
 そういって紗江子ママはアリッサを抱きしめる。
「『やっぱりそうなる』とは――どういうことだ?」
 訝しげな表情でなつきがそう問いかけると、紗江子ママはアリッサを抱きしめたまま事もなげに答えを返した。
「なつきちゃんの胸どうこうなんて今日明日でどうこう出来るものでもないし。料理をおぼえてお弁当でも作っていくってのは定番の作戦でしょう? そして我が家の家事全般は深優の独擅場なわけだし、深優に教わるしかないなんてわかりきっていることじゃない」
「……じゃあ、あの『戦力分析』の意味は?」
「お・や・こ・の・ス・キ・ン・シ・ッ・プ♪」
 なつきはもはや言葉もなく崩れ落ちた。
「深優、お願いできるかしら?」
「お嬢様のご提案です、全力で答えさせていただきます」
 そして相変わらず本人の意思など無視して話は進んでいた。

 ちゃららっちゃちゃちゃちゃん、ちゃららっちゃちゃちゃちゃん、ちゃららっちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃっちゃん

 部屋の隅に置かれたラジカセからそんな暢気なBGMが流れる中、なつきと深優は厨房に立っていた。
 ちなみにお揃いのエプロンには『深優先生の3分クッキング』と書かれている。いつそんなエプロン作ったのかとか聞いちゃいけない。
「では、女性が男性に作る料理の定番であり、手作り弁当に添えることも可能な肉じゃがを作ろうかと思います」
「勝手にしてくれ」
 ぱかーん。
 不貞腐れてなつきがそう言ったらおたまで脳天を殴られた。結構いい音がした。
「痛いだろう、何の真似だ!」
「黙りなさい。正直私も貴方が料理できようと出来なかろうと知ったこっちゃありませんが、お嬢様がそうお望みなのです」
 言われてなつきが観客席もといリビングを見ると両手に箸を持ってニコニコと微笑んでいるアリッサがいた。
 ともすればそのまま箸で茶碗をちんちき叩きそうな風情だった。
 まあさすがにそんなことをしたら紗江子ママに止められると思うが。多分。
「あの笑顔を裏切る気ですか」
「くっ……」
「そして何より、貴方は鴇羽舞衣に勝ちたいのでしょう?」
 そう言ってなつきの返事を待つ深優。
 なつきは少しの間悩んでいたが、やがて深優を正面から見つめかえした。
 そうだ、やつに負けてばかりはいられない。
 今まで料理が出来なかった私が料理を覚え、手作り弁当を持っていけるようになれば。
『祐一、これを――』
『これは?』
『いいから開けてみろ』
『うわ、美味そうな弁当だな。食べていいのか?』
『ああ、そのために作ってきた』
『ありがとう。うん、美味いぞ』
『そうか?』
『あともう一つ食べたいものがあるんだけど』
『何だ?』
『お前さ――』
『あっ――』
 ぱかーん。
 また殴られた。
 しかしなつきに、それに対して怒る気持ちはなかった。
「どうするのですか。私に料理を習いますか? それとも諦めるのですか?」
 だから、そう問いかける深優の声に、
「よろしく――頼む」
 そう答えて深々と頭を下げた。
 リビングにいるアリッサからは拍手が飛び、紗江子ママはハンカチで目元を押さえている。
 そして深優はかすかに微笑み、口を開く。
「私の教え方は厳しいですよ?」
「ああ、どんとこい」
 かくしてなつきの料理修行が始まった。


「じゃがいもの皮を剥くときに芽を取りなさいといったでしょう。皮より身の方が多いような剥き方をしながらどうしてピンポイントに芽を残せるのですか」

「油を引かずに肉をいためたら焦げて貼り付くに決まっているでしょう」

「アクをとりなさいといったのです。だし汁を捨てて何を作る気ですか」

「ああもう予測していました。調味料の分量を絶対間違えると思っていました」

「マヨネーズは入れなくていいんです!」


 そして三分後。
「お嬢様、申し訳ありません」
「ううん、深優は頑張ったわ」
 結論から言うと料理は失敗だった。
 いや、結論から言わないで過程を見直してみても全部失敗している気がするが。
 台所は惨憺たる有様で器には贔屓目にも肉じゃがと呼ぶのは難しい物体が鎮座してらっしゃった。
 万能アンドロイドたる深優にもできないことがあったのだ。
「だめねえ、なつき」
「うるさいっ!」
 容赦のないママの声になつきはそう言いかえすが、料理出来なかったことは紛れも無い事実だった。
「深優のあれだけ解りやすい説明を受けて料理が出来ないなんて問題よ? 仮にも女の子なんだから」
「『仮にも』とか言うな。そこまで言うなら母さんもやってみればいいじゃないか」
「いいわよ、見てなさい」
 そう言うと紗江子ママはすっくと立ち上がり、なつきからエプロンを奪い取った。
「深優!」
「はい、紗江子様」
「次は私が挑戦するわ」
「了解しました。それではお嬢様」
「うん、頑張ってね」
 深優もまたすっくと立ち上がり、台所の掃除に取り掛かった。
 そして五分後。

 ちゃららっちゃちゃちゃちゃん、ちゃららっちゃちゃちゃちゃん、ちゃららっちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃっちゃん

 部屋の隅に置かれたラジカセからは再びBGMが流れていた。
 万能アンドロイド深優の手により台所は使用前の姿を取り戻し、先ほどと変わらぬ光景を取り戻していた。
 ただ違うのは深優の隣に立つのがなつきではなく紗江子ママだということのみ。
「紗江子様、遠慮はしませんよ」
「どんときさない!」
 そして料理が再び開始された。


「確かにジャガイモの芽はとりました。だけど芽も一緒にしては意味がないでしょう」

「油を入れすぎです。油で煮る気ですか」

「アクをとりなさいといったのです。中身を捨てて何を作る気ですか」

「ああもう予測していました。調味料の分量を絶対間違えると思っていました」

「ケチャップは入れなくていいんです!」


 そして三分後。
「お嬢様、本当に申し訳ありません」
「ううん。深優は本当によく頑張ったわ」
 歴史は繰り返す。そんな言葉がぴったりな料理教室だった。しかもそこはかとなく失敗がパワーアップしていた。
「まさか料理がここまで難しいなんて……」
「私はそれより、どうして母さんがあそこまで自信満々だったのか知りたい」
「だってケチャップライスは作れるのよ!」
「他に作れないなら私と大差ないだろう」
 全く持ってその通りだった。
 なつきの方がまだマシじゃないかと思えるほどの失敗っぷりだった。
 ひょっとして料理出来ないのは玖我家の遺伝とか何とかでDNAに書きこまれたりしてるんじゃないだろうか。しかし、もしそうだとするとアリッサも料理が出来ないことになる。それはあまりに可哀想過ぎる。
 そんなことを思ってなつきが眼を向けると、アリッサはにっこりと微笑んで口を開いた。
「気を落とさないで、お姉ちゃんにお母さん。料理は深優が得意なんだし」
「そうですね。皆さんができないことをするために私はここにいるのですから」
 どうやら落ち込みモードから回復した深優もそう声をかけた。
 まあ、ここで意固地になっていてもしょうが無い。なつきと紗江子ママは視線を交わしあった後、暗いムードを吹き飛ばすかのように二人ともにっこりと微笑んだ。
「そうね、これからも世話をかけるけど」
「私たちも手伝えることは手伝うから、何かあったら言ってくれ」
 家族全員が全てのことをする必要はない。
 家族なんだから――家族だからこそ、お互いの欠点を補い合えばいい。
 その日四人は一緒にそんなことを思い、家族の絆をよりいっそう固いものにした。






「しかし、深優は料理が出来るんだな」
「料理用のプログラムならいくらでも作れるんだけどねー」
 なつきの言葉に紗江子ママはそう答え、そのまま何事か考え込んだ。
「母さん?」
「なつきちゃん」
「な、なんだ」
 紗江子ママの眼鏡がきらりと光った。
「料理できるようになりたい?」
「そりゃまあ、出来ないよりは出来た方が……」
 元々料理をするのは祐一に弁当を作ってやるためだったわけだし、とまあそこまでは言えなかったが肯定の意思を示した娘を前に、紗江子ママの目の輝きはより一層光を増した。
「深優、メンテナンスベッドを用意して」
「わかりました」
「ちょっと待て、何をする気だ」
 何かとてつもなく嫌な予感がしてきたなつきがそう問いかけると、もはやその目を爛々と輝かせた紗江子ママは高らかに答えを返した。
「練習なんてまどろっこしいことをしなくても、サイボーグに改造して料理プログラムをインストールすればいいのよ!」
「ちょっと待てえっ!」
 もちろんそんな言葉で待つはずもなく、改造準備は紗江子ママと深優の手により着々と進められていく。
「改造すれば胸だって大きく出来るわよ」
「……いらん!」
「間がありましたね」
「あったわね」
「深優、私も改造したほうがいいのかしら」
「大丈夫、お嬢様には未来があります」
「付き合ってられるかあっ!」
 数分前に固くなった絆をぶっちぎる勢いでなつきが家出したのは数分後の出来事だった。
「どうせなら武装もつけてデュランと合体攻撃ってのも魅力的よね」
 そして紗江子ママに反省する気はさらさら無かった。





後書きとおぼしきもの


 そんなわけで、今度は忌呪さんとこで書いた舞-HiME本の原稿を公開。
 つうか舞-HiME小説本ってだけで無茶気味なのにしかも漫画版というのは正気の沙汰ではありませんね。今更ですが。
 でも舞-HiMEはアニメより漫画のほうが好きなのです。ラブコメちっくで。
 ちなみに舞-乙HiMEは比べるまでもなく漫画版のほうが大好きです。なんだあのハーレムエンドはもっとやれ。
 つうか最近SS書いてねえなあ……
 とかなんとか後書きでもなんでも無いものを書き散らして撤収。

2007.03.20 右近